往復書簡16

光島さんへ

往復書簡、止めてしまっていてすみません。

振り返ってみると、一応、去年の梅雨や夏に出だしだけ書いていたのがあるのですが、まる一年近く書けないまま過ごしてしまっていました。

前回の光島さんの体調の話はなかなかに深刻でしたが、こう言って良いかわかりませんが、とても面白かったです。その後だいぶ時間が経って、最近は調子よさそうで一安心しています。

体調でいうと、僕はアトピー性皮膚炎があって、もう長年良くなったり悪くなったりを繰り返しているのですが、光島さんには気づかれていないかもしれませんね。よく体を掻いているので、それは気づかれているかもしれません。この春先に花粉と黄砂の影響か、ぐっと悪化したのですが、病院を変えたところ薬も変わって、それが良かったのか気分も関係するのか、かなり良くなって今のところは安定しています。

さて、今回は最近の光島さんとの活動を振り返りたいと思います。まずは2月初めの卓球ですね。アトリエみつしまのメンバーや友人を誘っての卓球体験会で、鉄球入りのピン球を使って音をたよりにプレーするサウンドテーブルテニス、正確には僕らがやったのはそれよりもルールのゆるいスルーネットピンポンでした。

全国大会の優勝者である米澤浩一さんがたまたま光島さんの古いお知り合いで、幸運にも今回の指導役を受けてくれました。短い時間でしたが、第一線の人に教えてもらえたのは、その競技をより理解できたように思います。

アイマスクをして音でボールの位置を把握する感覚、なんとなく想像していましたが、実際にやってみるとやっぱり難しい。使ったことのない筋肉を使っている感じがして、もどかしさと面白さが入り混じった気分でした。光島さんにとっては普段の感覚を使ってスポーツを楽しんでいる感じだと思うのですが、僕にとっては未知の感覚を使って、今まさにその感覚を発達させていっている感じがして、競技性と感覚の上でと二重に楽しめました。

そして、ボールを打ち返すのは難しいのは難しいのですが、意外とできるというのも発見でした。普段にはない運動なので、どこまでできるのか想像がつかなかったのですが、精度はともかくある程度迫ってくるボールの位置を把握できるというのが分かりました。米沢さんのアドバイスで、「音を聞いて位置を把握しようとしているのではダメだ」というのは面白くて、実際やっていると、その意味するところは理解できたように思います。見えていないのですが、見えているかのように卓上とボールを頭の中にイメージするようにして打ち返す、とした方が上手くいっていました。そのイメージ化の過程で聴覚を使ってはいるのですが、そこには意識を集中するのではなく、体を動かす情報源としては、想像上の視覚イメージに意識を集中して打ち返す(つまり僕にとっての普段の運動神経の使い方)、というような脳の使い方になっていたのかと思います。

普段も無意識の聴覚で実はかなり状況を把握しているのだと思うのですが、だからこそ、見えないからといって聴覚だけに集中しすぎるより、普段に近い聴覚の使い方をした方が情報を把握しやすいのかもしれません。

あと、米沢さんはすごかったです。卓球台の横、審判の位置に立って僕らを指導してくれましたが、目で見ている人よりも、インかアウトかとか、空振りとか状況の把握が早かったです。指導されているだけでも、達人技を見ているようで気持ちよかったです。

さて、最近の活動のもう一つは庭についてです。こちらも2月ですね。光島さんにお誘いしてもらって、京都の東山にある無鄰菴での視覚に障害のある方たち向けの苔庭づくりのワークショップに参加してきました。

室内で庭の説明を聞いた後、実際に案内されて庭を見学しました。まず面白かったのが、視点場と呼ばれる石とその前の飛石でしょうか。視点場は丸くて平べったい、人が一人二人立てるほどの大きさの石ですが、ちょうど庭を眺めるのに良い位置に設置されています。確かに、小川やなだらかに起伏する苔や草に覆われた地面、庭周辺の木立、遠方の東山の山並みがよく眺められる場所でしたが、それよりもなるほどと思ったのが、その手前でした。

庭の入り口から建物の脇を通って視点場までの飛石が、とても凸凹した不安定な作りで、あれ、飛石ってこんなに歩きにくいんだっけ、これは光島さん大変だろうな、と思っていたのですが、実はわざと意識を足元に集中せざるを得ない作りになっていて、視点場にきた時に初めて顔をあげるという狙いになっていました。展覧会でも入り口に壁を立てて一度視界を遮り、中に入ってから全体が見渡せるようにする構成がよくありますが、それと同じ効果で、かつ、それを地面の操作のみでやってしまうというのは洒落ていますね。

あとは、小川にわざと大小の段差(小さな滝)を設けて音を生み出し、その配置で音空間を設計しているという話も印象に残った点です。庭の真ん中あたりで、音の空間として広がりが面白いというポイントがあり、確かに全方向から水の音が聞こえる場所がありました。視点場との感覚の違いがよいです。

その後は、別館に移動しての苔と石の配置による卓上の苔庭づくりのワークショップでした。僕と光島さん、もう一組の方と一つ作りましたが、協働で石を配置していくというのは、どうなることかと思いましたが、けっこうスリリングで面白かったです。僕は見ながらでしたが、光島さんはどんな感覚だったのでしょうか。できた苔庭は、なかなか良い出来でした。

そういえば、卓球は英語ではテーブルテニスですが、テニスは日本語では漢字で庭の球と書きますね。つまり、テーブル上の庭球と言えます。庭のスポーツのさらに卓上版だったわけで、言葉の上でも二つの活動はつながっていたみたいです。

 

今村遼佑