往復書簡18「木を触りに行く」
光島さんへ、
先週金曜日は「木を触りに行く」を目的として、糺の森まで一緒に(今村、光島さん、アトリエみつしまの高内さんとで)出かけましたが、いい天気でよかったですね。日差しはそれなりに強かったですが、木陰は涼しくて木々の葉が生い茂る下を歩くには絶好の日和でした。
最近は、そんな気持ちの良い気候なので自転車によく乗っています。仕事先にも40分ほどかけて自転車で行ったりしていますが、いつもは移動手段が車かバスが多いので、普段行く場所に行く時であっても自転車だと知らない道を走ることができて、新しい発見があって楽しいです。自転車は今年の春に新しく買うまで、長らく持っていなかったので、乗っているだけでも新鮮です。景色の楽しさもありますが、ペダルを漕げば前に滑るように進むという身体感覚もあるのだと思います。そういえば、コロナ真っ只中の時に、アトリエで何か気分転換に遊べるものをと思って、スケボーを買ってみたりしました。昔から、台車を押すたびにそれに乗ることを想像してしまうのですが、滑る感覚は好きなんだと思います。キックボードでもよかったのですが、より自分には縁がないだろうと思っていたものにしました。初心者の第一段階である、ジグザグに動いて地面を蹴らずに前に進むのは意外とすぐにできるようにはなりましたが、ジャンプするのが難しいし怖かったので、それ以上の上達はあきらめました。今でもたまにアトリエの中を静かにぐるぐる回っています。
さて、話を「木を触りに行く」に戻しますと、僕はわりと積極的にこの案を押した割にはノープランだったのですが、光島さんがiPhoneで触る手を撮ってみるという新しい試み(これまで同様の撮影はしていますが、使っていたのはコンデジ)を用意してきてくれていたおかげで、収穫のあるものになったかなと思います。僕も木に触るのは楽しかったのですが、どうしても先に見てから触ることになるので、触った時にそれほどイメージとの差がなくて、多分全く見ずに触った方が体験としては面白いんだろうなと思っていました。
ただ、振り返ってみると、光島さんにどれを触ってもらおうかと探しながら木々を見ながら歩いたのが、普通に歩くのとは違う体験を生み出していたように思います。木を眺めるというのは普段からよくありますが、今回ほど大きさ、幹や根の形、木肌の質感を真剣に見ながら歩いたこともないだろうと思います。普段なんとなくで満足して済ませていたものを、触ってもらう・もらわないの判断があるためにしっかり細部まで見ていたようです。美術館でも、どれか一点家に飾るならどれがいいかとか妄想しながら見ると、そうでない時とは違う部分が見えてきたりして楽しめたりすることがあるのですが、それと同じですね。もちろん、そこに注視するがために見失っているものもあると思いますが。
光島さんは、今回の木を触る回の感想は、どんな感じだったでしょうか。
今村遼佑